これまでの研究結果

ナノスイッチを原子操作によって創製し室温で動作させる
Nature Communications 5 (2014) 4360





単一の原子や分子をナノスイッチとして動作させる方法が数多く提案されている。しかし、そのほとんどが極低温環境を必要としていた。実用上重要な室温環境では、素子が熱的に不安定になり、スイッチ制御が難しくなり、一方、なんらかの方法で熱的な挙動を抑えすぎると、スイッチ動作を引き起こすこと自体が難しくなる。したがって、室温環境下でナノスイッチを実現するには、「スイッチ素子を外部からの電流によってのみ安定に動作させる」という繊細なエネルギーバランスを如何に実現するかが鍵となる。そこで、ナノクラスターをナノスイッチとして動作させることを試みた。鉛原子から成るナノクラスターを個々の原子から組み立て、ナノクラスターを構成する原子数を単原子レベルで制御することで構造の安定性を精密に制御し、これにより室温で動作するナノスイッチを実現した。
原子操作によるナノクラスターの組立
Nature Communications 5 (2014) 4360



走査型プローブ顕微鏡を用いて、原子1つ1つを動かして、個々の原子からナノクラスターを組み立てる新しい原子操作の手法を発見した。実験には、応用上重要であるシリコンの表面を使った。シリコン表面は、周期的な表面構造を持ち、ナノ空間が周期的に配列しているとみなすことができる。この表面の上に原子を蒸着させると、単原子がナノ空間に閉じ込められて、拡散しているという状況が実現する。そのナノ空間の境界付近に、探針を近づけることによって、1つのナノ空間に閉じ込められている単原子を隣のナノ空間に移動させることができることを発見した。この原子操作の際に、探針にかかる相互作用力や、探針と表面の間に流れる電流を詳しく解析した結果、探針と単原子との間に働く化学結合力によって、ナノ空間をまたぐ原子移動が起こることが明らかになった。
2つの物体間の化学結合力と電流の普遍的関係性
Physical Review Letters 111 (2013) 106803 (Selected for Editors' suggestion)


 
 
 
 
化学結合力とトンネル電流は共に、2つの物体の原子間の電子雲の重なりにより生じ、この一見異なる2つの物理量についての同等性が、量子力学の基本問題として長く議論されていた。  そこで、2つの物体を接近させて、近接する2つの原子間に働く化学結合力とトンネル電流を精密に測定した。原子間力顕微鏡を使って、半導体であるシリコンに対して実験を行った。すると、トンネル電流は、化学結合力の二乗に比例するという、単純な関係性 があることがわかった。これは、量子力学で予測されていたにも関わらず、これまで検証されていなかった、世界で初めての実験結果である。この関係性は、エネルギーが等しい電子雲同士が重なり合った際に、量子力学から期待される関係であり、理論計算により、実験で用いた半導体では、確かにこの条件が成り立っていることを明らかにした。
探針先端の活性度と原子操作との関係
ACS Nano 8 (2013) 7370

これまで、探針に依存して、原子を効率的に動かせる場合と動かせない場合とがあることが知られており、原子操作を用いたナノデバイスの作製の効率化が阻まれていた。そこで、原子操作の効率が探針にどのように依存するのかを系統的に調べた。まず、様々な探針を用いて原子操作の実験を行い、原子移動の確率を計算し、次に、それぞれの探針と表面の原子との間に働く相互作用力を精密に測定した。その結果、探針を同じだけ対象の原子に近づけても、その原子を動かせる探針と動かせない探針があることが判明した。さらに、原子操作が行えるか否かと、相互作用力の大きさとの間に相関があることを発見した。具体的には、探針とシリコン原子との間の相互作用力の大きさが1.5 nN(1ナノニュートンは1ニュートンの10億分の1の大きさの力)よりも大きいときは、その原子を動かすことができるのに対し、1.5 nNよりも小さいときは、原子を動かせない。これらの結果と理論計算により、表面の原子を動かすためには、探針先端がより化学的に活性である必要があることがわかった。探針先端の修飾も含めた制御が効率的な原子操作に有効であることを示唆している。

Si表面上に成長させたCaF2薄膜におけるKPFM測定
Appl. Phys. Lett. 101 (2012) 083119

シリコン基板上に成長させたCaF2薄膜上でケルビンプローブフォース顕微鏡(KPFM)測定を行った。この表面は探針先端の極性によって、AFMで画像化されるイオンが入れ替わることが知られている。つまり、探針先端の極性が正の時は、Fイオンが画像化され、探針先端の極性が負の時は、Caイオンが画像化される。今回、凹凸のクロストークを避けるために、高さ一定モードで、AFMとKPFMの同時測定を行った。驚くべきことに、AFMと同様にKPFMでも探針先端の極性によってコントラストが反転した。つまり、KPFMは表面の局所電位を画像化するという標準的な解釈を否定する結果が得られた。イオン性の表面をKPFMで調べるときは、探針先端の極性にも注意を払う必要がある。
AFM/STMによる相互作用力とトンネル電流の同時3Dマッピング
J. Phys. Condensed Matter. 24 (2012) 084008

金属コートされたSiカンチレバーを用いて、周波数シフトと時間平均トンネル電流を同時に3次元マッピングした。表面のサイトに依存しない長距離力を利用することによって、室温環境下でもマッピング中の探針ー試料間距離を維持することができた。測定された量は、それぞれ相互作用力とトンネル電流に変換された。さらに、AFMにより探針ー試料間距離を制御することにより、高さ一定のCITS測定が可能になることも実証した。探針先端がシリコン原子で終端されていると考えると、実験をよく説明できることも分かった。
フォーススペクトロスコピーと第一原理計算による二酸化チタン表面のAFM画像化機構の解明
Phys. Rev. B 85 (2012) 125416

二酸化チタン表面 [TiO2(110)表面] をAFM観察すると、探針先端の状態によって、いくつかの異なる原子コントラストが得られることが知られている。主要な2つのコントラストに関し、正極性探針では表面のブリッジ酸素原子が画像化され、負極性探針ではチタン原子が画像化されると、イオン結合のモデルで説明されてきた。本研究では、探針との相互作用力を定量化するフォーススペクトロスコピーの実験と第一原理計算を行った。これにより、様々な探針ー試料間距離で測定されたAFM像を統一的に理解することができ、主要な2つのコントラストの起源が明らかになった。表面のブリッジ酸素原子が画像化される探針と、チタン原子が画像化される探針の2つでそれぞれフォーススペクトロスコピーを行った。すると、どちらの探針においても、表面の全てのサイトで短距離力が引力となり、単純なイオン結合のモデルでは説明できないことがわかった。理論計算によると、チタン原子が画像化される探針として、酸素原子で終端された探針モデルが実験のフォースカーブをよく説明した。そして、探針先端の酸素原子が水素で終端された探針モデル、すなわち水酸基のモデルが、酸素原子が画像化される探針によるフォースカーブをよく説明した。これは、実験中の探針先端の水素の着脱によって、コントラストが容易に変わることを示唆しており、実験結果をよく説明する。
ケルビンプローブフォース顕微鏡による二酸化チタン表面上の金ナノクラスターの電荷状態測定
Appl. Phys. Lett. 9 (2011) 123102

二酸化チタン表面上の金のナノクラスターは、一酸化炭素の酸化反応などに対して、高い触媒活性を示すことが知られている。金ナノクラスターと担体との間の電荷の移動が、触媒機構に関わっていることが過去の研究で示唆されている。そこで、原子レベルに清浄化された二酸化チタン表面上に金を蒸着し、2-3nmのサイズの金ナノクラスターを作製し、ケルビンプローブフォース顕微鏡によって、金ナノクラスターの電荷状態を調べた。その結果、金ナノクラスター上では、負の帯電を示す静電気力が働いていることがわかった。AFMの凹凸像測定と同時にケルビンプローブフォース測定すると、探針の上下移動に伴うアーティファクトが疑われるため、局所電位の探針ー試料間距離依存性も精密に測定した。この結果からも、金ナノクラスターが負に帯電している結果が得られた。二酸化チタン表面から金ナノクラスターへの電子の移動がおこっていると考えられる。
水晶カンチレバーを用いたAFM/STM測定
Appl. Phys. Express 4 (2011) 115201

Atomic force microscopy (AFM)とScanning tunneling microscopy (STM)は共に、鋭い探針で表面をスキャンすることによって、様々な表面の原子を観察・測定することができる重要な計測装置である。近年、AFMの性能向上に伴いAFMとSTMの同時測定が注目を集めている。同時測定により、同一探針を用いて、表面の同一原子の化学結合力、局所電位、局所状態密度などの多様な物性量を測定することができる。しかし、このAFM/STM同時測定には、次の2つの測定上の疑問があることが、広く知られていた。1. AFM測定のためには、カンチレバーを振動させる必要があるが、その際に測定されるトンネル電流(時間平均トンネル電流)が、STM単独で測定されるトンネル電流と同等であるのかどうか。2. AFMによって測った探針―表面間距離が同一であるにも関わらず、使う探針によって、トンネル電流が数桁も異なった値をとることがある。 本研究では、金属探針を水晶製カンチレバーに取り付けた新しいAFM/STM装置を用いて、2つの問題点を明らかにした。1. 測定されるトンネル電流は同等である。2. 探針先端に表面の原子が付着することによって、探針の導電性が著しく変化する。以上により、探針先端の処理さえ適切に行えば、AFM/STMによって、問題なく多様な物性計測が行えることが示された。
AFM/STMによる相互作用力とトンネル電流の同時測定
Appl. Phys. Lett. 94 (2009) 173117

金属コートされたSiカンチレバーを用いて、Si(111)-(7x7)表面上でAFMとSTMの同時測定を室温で行った。表面を高さ一定モードでスキャンし、周波数シフトと時間平均トンネル電流を同時に画像化した。また、Siアドアトム上に探針を固定し、周波数シフトと時間平均トンネル電流の探針ー試料間距離依存性を測定し、それらを相互作用力と最下点でのトンネル電流の物理量に数値的に変換した。過去の報告と同様トンネル電流の急落が観測され、今回はその急落が起こる際の探針ー試料間の相互作用力を見積もることができた。さらに、同じ探針で、STS測定を行い、スペクトルが過去のSTMで得られたものとよく一致することを確かめた。本技術により、表面の同一原子上で同一探針を用いて局所状態密度、探針との相互作用力を測定することができるようになった。
単原子ペンによるナノパターニング
Science 322 (2008) 413



AFMの探針を表面の目標の原子に精度よく近づけると、探針先端の1個の原子と表面の1個の原子とが交換する現象を発見し、この方法を「交換型垂直原子操作」と名付けた。これによって、探針先端の異種原子を表面へ高速で埋め込むことが可能になる。AFMでは、探針先端に作用する力を測ることができるため、探針を目標原子に近づける際、原子交換に伴う相互作用力の変化を検出することによって、原子交換現象を制御できた。実際、スズ(Sn)表面に探針先端から1つずつシリコン(Si)原子を埋め込むことによって、左図に示すように、シリコンの元素記号である「Si」という原子文字を埋め込んだSi原子を並べて作製した。探針先端に様々な原子を付着させることによって、様々な原子種を表面に埋め込むことができるため、半導体でのドーパント原子の精密な配置などへ応用することができる。
Force mapping による垂直力、水平力の測定
Phys. Rev. B 77 (2008) 195424

Si(111)-(7x7)表面で周波数シフトを二次元的にマッピングし、それを垂直力マップ、ポテンシャルマップ、水平力マップに数値的に変換した。そして、得られた垂直力のマップから、大振幅から小振幅まで様々な振動振幅における周波数シフトマップを導出した。これにより、振動振幅を小さくするにつれて、NC-AFM凹凸像における凹凸が劇的に増大することを見いだした。また、水平力マッピングの解析により水平力が0になる位置を同定し、測定が妥当であることを示した。さらに水平力マッピングから、動的水平力顕微鏡の周波数シフトのマップを数値的に導出して考察した。
2次共振モードにおけるForce spectroscopy
Appl. Phys. Lett. 91 (2007) 093120

カンチレバーを2次の共振モードで共振させて原子間力顕微鏡を動作させると、実効的に大きなバネ定数を持つことからカンチレバーを小振幅化することができる。しかし、これまで2次共振モードにおけるバネ定数が実験的に求められたことがない。そこで、カンチレバーを1次と2次の共振モードで振動させて、Force spectroscopyを行った。探針先端が同じであれば1次と2次とで同じ相互作用力が得られると考えられ、2次共振モードのバネ定数を求めることができた。また、小振幅でのForce spectroscopyの結果も示し、1次共振モードで用いられてきた周波数シフトと力の変換式の妥当性を検証した。
AFMを用いた元素識別
Nature 446 (2007) 64




原子間力顕微鏡を用いて探針と表面にある個々の原子との間に働く化学結合力を精密に測定することによって、それらの元素を同定する技術を開発した。同じ元素の化学結合力を測定しても探針先端の構造や組成が変われば様々な値をとることが明らかになったものの、同じ探針を用いて2種類の元素を比較すると、化学結合力の最大引力の比が探針に依らない不変量になることを発見した。これによって、表面の個々の原子の元素同定が可能になった。この元素同定法は、半導体デバイスのドーパント・不純物等の元素同定や多元素から成るナノデバイスを原子1つ1つから組み立てるボトムアップナノテクノロジーへ応用可能である。
Si(111)-(7x7)の原子操作とその機構の解明
Phys. Rev. Lett. 98 (2007) 106104



表面の空孔を利用して、Si原子の水平原子操作を室温環境下で行った。原子操作は、ベクトルスキャンによって行い、その際の探針の軌跡を記録した。その結果、Si原子は必ず準安定吸着サイトを経由して動くこと、探針との引力によって原子操作が起こること等が明らかになった。また、原子操作を行った時と同じ探針を用いて、Si原子上で化学結合力の測定を行った結果、比較的弱い引力で原子操作が行われることがわかり、熱エネルギーを利用した原子操作であることが分かった。
Si原子とSn原子上でのForce spectroscopy
Phys. Rev. B 73 (2006) 205329



Sn原子とSi原子が混在した表面において、NC-AFMの凹凸測定とForce spectroscopyを行った。第一原理計算との比較によって、探針ー試料間距離が比較的大きいときは、原子の空間的高さを反映したNC-AFM凹凸像が得られ、探針ー試料間距離が小さくなるにつれて、Sn原子とSi原子との間の緩和の仕方や相互作用力の変化の仕方の違いを反映して、NC-AFM凹凸像におけるSn原子とSi原子との高さの差が縮まっていくことが分かった。
アトムトラッキング法を用いた室温でのForce spectroscopy
Appl. Phys. Lett. 87 (2005) 173503

アトムトラッキング法をAFMに応用することによって、熱ドリフトが無視できない室温においても、単原子のForce spectroscopyが行える技術を開発した。この技術により、熱ドリフトの完全な補償と水平位置精度10 pmという高精度な探針の原子真上への位置合わせを実現した。それによって、複数回の周波数シフトカーブを再現性よく測定できるようになり、平均化により高いS/NでForce spectroscopyを行えるようになった。この技術が、原子操作に必要な力の測定や元素識別などの突破口になった。
AFMを用いた室温での原子操作・組立
Nature Materials 4 (2005) 156



表面に埋め込まれた異種原子の位置を探針によって、交換する新しい原子操作の方法である「交換型原子操作」の方法を発見した。この方法によって、Ge表面に埋め込まれたSn原子を用いて「Sn」という「原子埋め込み文字」を室温で作製した。Ge原子もSn原子も下地と強く共有結合しているので、このナノ構造は室温でも24時間以上安定である。この結果は、AFMを用いた初めての原子組立であり、今後、絶縁体表面でのナノデバイス作製につながると期待される。AFMがナノテクノロジーのツールとして高いポテンシャルを持つことを示した。